【コラム】投資用物件を相続した場合

〜売却・処分・解体まで、実家とは違う落とし穴〜
「父親が所有していた投資用マンションを相続することになった」
「親が亡くなった後、知らないうちにアパートを相続していた」
「借金もあるのに賃貸物件も相続?これって得なのか損なのか…?」
不動産の相続というと「実家」や「自宅」のイメージが強いですが、近年では投資目的で購入した収益物件(アパートや区分マンション、駐車場など)を子どもが相続するケースも増えています。
しかしこの「投資用物件の相続」には、実家のような感情的な問題とは別に、“金銭・法務・税務”の三重苦が待っていることも。
この記事では、投資用不動産を相続したときに知っておくべきこと、注意点、トラブル回避のコツや処分・売却・解体の判断基準をわかりやすく解説します。
■ 投資用不動産とは?実家との違い
「投資用物件」とは、賃料収入を目的として所有されている不動産のことを指します。
代表的な例:
- 賃貸アパート・マンション
- 区分所有の賃貸用ワンルーム
- 駐車場やコインパーキング
- 商業用ビルやテナント物件
これらの物件は「自分で住む」実家と違い、収益が発生する一方で、管理責任やリスク、税金負担も大きいのが特徴です。
■ 相続発生後、まず確認すべきこと
投資用物件を相続した場合、次のような情報を早急に把握する必要があります。
1. 所有者名義と登記状況
- 故人名義か?他の共有者はいるか?
- 借地権・底地権などの特殊な権利関係は?
2. ローン・借入金の残債
- 借入が残っている場合、相続人に債務も引き継がれる
- 団体信用生命保険(団信)に入っていれば残債ゼロになることも
3. 家賃収入と管理状況
- 管理会社はどこか?契約内容は?
- 滞納者の有無、空室率
- 修繕積立金・管理費の残高
4. 賃貸契約の内容
- 入居者はどのような条件で入っているか
- 退去予定者はいるか?サブリースか?
☑ 重要ポイント
相続は「財産」だけでなく「契約」や「責任」も一緒に引き継がれます。
「収入があるからラッキー」と思っていたら、空室だらけで赤字物件だったということも珍しくありません。
■ 相続する?放棄する?判断のポイント
投資用物件を相続すべきか放棄すべきかの判断には、以下の視点が必要です。
▽ プラスになる場合
- 安定した家賃収入が見込める
- ローンが完済済み(または団信でチャラ)
- 売却益が出る可能性がある
- 築年数が浅く、管理状態が良い
▽ マイナスになる可能性が高い場合
- 修繕が必要だが資金がない
- 空室率が高く、収益性が低い
- 周辺の賃貸需要が落ちている
- 管理がずさんでトラブルの元
- 所有者が複数(共有名義)で処分しづらい
実際、「家賃収入があるから大丈夫」と思って相続したが、修繕や税金、管理の手間ばかりかかり、結果的に赤字になってしまったという例もあります。
■ 相続後の選択肢:売却・継続・処分・解体
投資用物件を相続したら、基本的に以下の選択肢があります。
1. 賃貸経営を引き継ぐ(継続)
- 家賃収入が継続できる
- 管理・修繕の手間とコストがかかる
- 築古の場合、将来的な修繕リスクも大
2. 売却する
- 市場価格によっては売却益が出る
- 賃貸中でも「オーナーチェンジ物件」として売却可能
- 相続登記が必要(遺産分割協議書なども準備)
3. 処分(共有名義を解消して代表者へ譲渡など)
- 相続人間の調整が必要
- 法律上の整理が難しい場合もあり、専門家の関与が必須
4. 解体して土地活用(建て替えや駐車場など)
- 築古物件では、解体して更地にする選択も
- 解体費用(100万〜数百万円)がかかる
- 更地にすると固定資産税が上がるケースも
■ 投資用物件を相続した際に起こりがちなトラブル
◆ トラブル1:相続人同士の意見が合わない
長男「売却して現金で分けよう」
次男「いや、賃料があるから持っていた方がいい」
→ 遺産分割協議がまとまらず、名義変更が進まないまま数年放置…
◆ トラブル2:相続登記をしていなかった
投資用物件を放置していたら、数年後に入居者からトラブル発生。
→ そもそも名義が故人のままで管理もできず、売却もできない…
◆ トラブル3:固定資産税や修繕費の請求が届く
「放置していたら、毎年20万円の固定資産税と共用部修繕費が請求されてきた」
→ 相続する気がないなら相続放棄の選択も必要。
■ 必ず確認したい「税金」と「相続登記」
▽ 相続税
投資用物件も相続税の対象です。
評価額は「路線価方式」や「固定資産税評価額」をもとに算出されますが、賃貸中なら「貸家評価減」などが適用されて評価額が下がることも。
※申告が必要な人は相続開始から10か月以内に相続税申告を済ませる必要があります。
▽ 譲渡所得税(売却する場合)
相続後に売却すると「譲渡所得税」がかかります。
取得費(=被相続人の購入価格)によって大きく変わるため、古い物件で取得費不明な場合は税金が高くなる可能性も。
■ 専門家に相談すべきケースとは?
以下のような状況では、必ず不動産・相続の専門家に相談しましょう。
- 共有名義での相続になりそうな場合
- 築古の物件で修繕や解体の判断に悩む
- 賃貸契約や管理会社とのトラブルがある
- 相続税の申告が必要なケース
- 売却か継続かで家族内の意見が割れている
相談先の例:
- 司法書士(登記、遺産分割協議書作成)
- 弁護士(トラブルや調整)
- 税理士(相続税・譲渡所得税)
- 不動産会社(査定・売却)
- 解体業者(建物解体)
■ まとめ:投資用物件の相続は、“財産”であり“責任”でもある
投資用不動産の相続は、「お金になる不動産」だからこそ冷静な判断が必要です。
- 本当に収益が出ているのか?
- 今後の維持・修繕に耐えられるか?
- 相続人間で協力できるのか?
「せっかく親が残してくれたから…」と感情に流されて安易に相続すると、将来思わぬ負担を背負うことにもなりかねません。
相続した投資用物件を活かすのか、売却・処分・解体するのか。
正確な情報と専門家の助けをもとに、「後悔しない選択」をすることが大切です。